その1.データ送信の仕組み
*このコンテンツには連載当時(2004年)のままの情報が含まれます。ご注意ください。
入社して約半年が過ぎ、曽我蔵くんもすっかり社会人としての生活に慣れた。目先のことだけをがむしゃらに追いかけてきた半年間だったが、ようやく周囲を見渡す余裕がでてきた。
それはテレビ会議システムについても同様だった。しかし、たったいま曽我蔵くんの頭に浮かんだ疑問点は、あまりにいまさらな気がして口にするのはいささか気が引ける。
おじいちゃん子だった曽我蔵くんは、若いくせに意外と古い言葉を口にする。
ふと顔をあげると、市川さんと目が合った。市川さんはいつもの笑顔を浮かべると曽我蔵くんを手招きした。
いまでは曽我蔵くんにも、この市川さんの笑顔の意味が理解できるようになっていた。市川さんは質問されたいのだ。質問されるとうれしいのだ。
初歩的な疑問で恥ずかしいんですが、テレビ会議システムのデータはどうやって送信されるんですか? テレビ放送は電波ですけど、テレビ会議システムはISDNやADSL、Bフレッツなどを使いますよね
と笑顔を深める市川さん。
地上波テレビ放送の仕組みを簡単に説明するね。デジタル放送やケーブルテレビは地上波テレビ放送と仕組みが少し違うので、いまは除外しておいて欲しい
テレビ放送の仕組み(地上波)
1.放送局のテレビカメラでとらえた映像は、光分解プリズムでR(赤)とG(緑)とB(青)の3つの色に分解され、それぞれの色の映像は電気信号に変換される。また、音声も音の高低などによって電気信号に変換される。
(市川さん:「このあと電気信号の変調という処理もあるんだけど、いまは割愛するね」)
2.次にこの電気信号をテレビ塔や東京タワーなどに設置された送信アンテナから、電波として空中に放たれる。
3.テレビ映像を受信する側ではテレビアンテナで電波を受信し、R(赤)、G(緑)、B(青)の映像の信号を取り出す。3つの信号をブラウン管で重ねてカラー映像を作り出す。
だから電波を使ってテレビ会議を行うのは、現実的ではない。だってテレビ会議を行う双方に、テレビ放送の設備を用意しなくちゃならないんだからね
あ、外国とかどうするんだろう。衛星放送を使うんですか? よく新しいビルが建って電波障害が起きたとかという話もありますよね
曽我蔵くんがあれこれと可能性を挙げると、市川さんはうんうんとうなづいた。
さっきの説明で、テレビ放送では映像や音声がR(赤)とG(緑)とB(青)に分解されて電気信号に変換されると言ったけど、その点はテレビ会議システムでも同じだ。
地上波テレビ放送とテレビ会議システムでの大きな違いは2つだよ。
まずはデータ送信。
さっき曽我蔵くんも言っていたけど、テレビ会議システムではデータを送信するのに電波ではなくISDNやブロードバンドなどのネットワーク回線を使うよね
テレビ会議システムの仕組み(データの圧縮)
映像や音声の美しさや自然さは、回線の速度や圧縮技術によって左右されてしまうんだけどね
テレビ会議システムの仕組み(データの送信)
曽我蔵くんは、市川さんが教えてくれた今回の内容を頭の中で反芻した。
最近、曽我蔵くんとあまり話をする機会がなかったからね。なんでも聞いてよ
最近の市川さんは、ちょっぴり寂しかったようだ。
そのとき市川さんの瞳がキラリンと輝いたように見えたのは、決して曽我蔵くんの見間違いではないようだ。