株式会社 CHEERFUL × VTVジャパン対談
オンライン会議の普及が進み、ツールやマナーに関する知識やノウハウが広まりつつあります。
その一方で、「どうもオンラインになると対面の時のように会議が進められない…」、「特に激しい議論をしたわけでもないのに、オンライン会議をしていてなぜか疲れた」という声も聞かれます。
今後オンラインでの会議・ミーティングが増える中で、どうすれば会議の質を上げていくことができるのでしょうか。
会議で人と組織を育成する専門家である株式会社CHEERFUL 代表取締役の沖本 るり子様をお招きして、弊社代表取締役の栢野が「会議の質を上げる方法」をテーマにお話を伺いました。
対談ゲストプロフィール
代表取締役 沖本 るり子 氏
https://www.e-cheerful.co.jp/
江崎グリコ株式会社、株式会社SRAを経て管財商社に入社。業務改善・業務改革のプロジェクトマネジメントを行い、30代前半で取締役になる。
「だらだら、イライラ、まとまらない」対立会議を2500時間体験したことを活かし、「5分会議で人財育成」を開発。「会議を活用した人財育成と組織改革」を柱に、企業向けコンサルタントや研修講師を務める。
著書『期待以上に部下が育つ 高速会議』、『期待以上に人を動かす伝え方』(かんき出版)ほか多数。
会議の評価はいまだ「質」より「時間」?
栢野:
今回このような場を設けたのは、沖本さんのメールマガジンなどで最近のご活躍の様子を拝見し、2009年にテレビ会議をツールとして活用しながらいかに質の高い会議をするかをテーマにお話したことを思い出しまして…。
新型コロナウイルスの影響などでさまざまな変化を経験した今、この状況を我々と違う視野・視点で感じていらっしゃるのではないかと思い、対談をお願いした次第です。
あれからもう10年以上になりますが、企業における会議の捉え方に、何か変化はありましたか?
沖本氏:
実は、大きくは変わっていません。
今もほとんどの組織では会議の質よりも、いかに短時間で物事を決めていくかに関心がいく傾向にあります。
私が開講している会議のやり方講座で、「1時間の会議と2時間の会議のどちらが良いか」と聞くと、みな1時間の会議を選びます。そこで質問を変えて、「何も生まない1時間の会議と、売り上げが1億上がる2時間の会議だったらどちらが良いか」と聞いてはじめて2時間の会議の方を選びます。
会議に対する固定概念の強さを感じます。
栢野:
今も昔も変わらないとは、意外ですね。
定量あって定性なし、というのは興味深い傾向です。
会議に必要なのは、「司会者」でなく「参加者」目線! 参加者目線でオンライン会議をするなら、映像よりも音声
沖本氏:
先日、勉強のため「オンラインセミナーのやり方」講座に参加しました。オンライン会議ツールで接続した60分程度の講座だったにも関わらず疲れてしまいました。なぜあんなに疲れたのか考えたとき、参加者ではなく司会者視点で展開されていたからだと気づきました。
おそらく、テレビ局のアナウンサーたちの手法を参考にしていたのでしょう。
栢野:
顔の見えない相手に一方的に情報配信することを前提とした放送技術の一環ですね。
ちょうど「オンライン」という言葉が出てきたので、視点を少し変えて質問させてください。正解のない質問ではあると思うのですが、オンライン会議を使いやすくするために、何かやるべきことはあるのでしょうか?
沖本氏:
私は、「やるべきこと」よりも「やらないこと」の方が大切ではないかと思っています。
例えば、「オンライン会議では相手に顔を見せる」というものがあります。しかし、顔を見せているから相手を見なくてはいけないと思ったり、自分も見られているという意識が働いたりして、かえって疲れていると考えることもできます。
さらに、参加者の顔と資料を見ているところにチャットまで加わったら、頭の中がマルチタスク状態になり、余計に疲れてしまいますよね。
「会議」ですから、議論こそが大切です。電話で話すことができているので、相手の顔が見えないと話しができないということはないはずです。最近よく見かけるオンライン会議のやり方は「顔」重視ですが、参加者側の目線で考えるなら、私は「音声」こそが一番大事だと分析しています。
栢野:
我々もこのような商材を扱っているのでよく目にしますが、映像と音声では情報量が多くインパクトのある映像にお客様の評価はいきがちです。なので、一番大切なのは「音声」だと伝え続けています。音声が悪いと疲れてしまいますし、何より集中できません。
実は最近、弊社では音声機器に関するお問い合わせを受けることが増えています。新型コロナの影響でオンライン会議をするようになってから、PCに内蔵されているものや複数人数で使うために買った安価な機器では品質があまりよくない、など音声に不満を感じているようです。
音声の大切さに気付き始めている人もいるのだと感じました。
私も、昔からマイクだけは良いものを使うようにしています。映像については、資料がはっきりと参加者に見えることの方が大切なので、自分の顔はPC内蔵のカメラで映せば十分だと感じています。
多くの会議講師がリアル・オンラインに関係なく、会議ではわかったら頷きを大きくするなどリアクションを大きくするようアドバイスしています。私は逆に、聞こえていることやわかっていることを前提に会議を進めて、そうでない時だけリアクションを返せばいいと思っています。どちらの場合でもリアクションをしようとするから疲れるのでしょう。
せっかく疲れるなら、本題について頭を使うことで疲れてもらいたいですよね。
栢野:
リアルでやっている会議と同じことをしようとするあまり、無理が出てきているように思えます。
もしかすると、オンラインならオンラインに適したやり方に変えていこうという発想自体があまりないのかもしれませんね。
沖本氏:
最近はやりのオンライン会議のやり方は足し算傾向で、やることが多すぎます。
オンライン会議ツールはいろいろな機能がついていて一見便利ですが、すべての機能を利用するかというとそうではありませんよね。全機能を使わせようとするから、操作にまで疲れてしまって…。シンプルが一番ではないでしょうか。
栢野:
確かに、オンライン会議ツールの機能が会議の質を上げてくれるかというと、別問題ですよね。どちらかといえば、やり方に工夫が必要だということですね。
私たちも、オンライン会議とリアルで会議をするのとでは同じことができるわけではないことが大前提だと思っています。オンライン会議とはこういうものだ、と最初から思っていれば抵抗も少なくすむと思います。
沖本氏:
私はずっと会議は人や組織が成長するための「道具」だと伝え続けていますが、いまひとつピンときていない受講生が多かったです。
しかし、オンライン会議が登場したことで、「道具」という感覚が理解され始めてきたように感じます。会議という道具を使いこなすことを意識してもらえたら、すごくうれしいですね 。
会議はスキルでなく「しくみ」でまわすもの
栢野:
それでは、「会議」の質を上げるにはどのようなスキルが必要でしょうか?
沖本氏:
そうですね…。会議の質を上げたいなら、「スキル」よりも「しくみ」を大切にした方が良いですね。
会議のハウツー本などに「ファシリテーション」という言葉がありますが、この言葉を使ってしまうと固定概念が働いて、「司会者がテキパキと会議を仕切る」ことに意識が向いてしまい、会議を司会者のスキルだけで回そうとしてしまいます。
栢野:
たしかに、会議は一人でするものではありませんね。
「しくみ」については、組織運営の上でも大切なことだと思います。「しくみ」が整っていれは、テンプレートをもとにどのような手順で進んでいくか合意が取れていることになりますし、手順がうまくいかなければ、改良・改善することができますよね。
沖本氏:
そうですね。それに、司会者スキルを身につけるには相当な時間を必要としますし、会社や組織の中で本業が司会者ということもほとんどないはずです。本業があり、会議がある。だからこそ、会議は誰にでもできるしくみであった方がいいと思います。
この「しくみ」がしっかりできていないと、会議準備に頼りがちになります。会議のハウツー本などで「会議は準備で9割決まる」という意見がありますが、私は違うと思っています。
栢野:
会議準備も大切ですが、すべてではないですよね。議題があって、それを検討するのであれば準備に9割とはいきません。
それに、何かしらの課題を達成したくて、解決するために会議をしているのですから、それを解決しないことには成果とは言えませんね。
ところで、会議における「同じ場にいることで生まれる一体感」について、沖本さんが留意していることはありますか?
これは、会議の進め方によるものが大きいのではないでしょうか ?
私の提案する会議(※)は、参加した人が一体感を得られるよう設計しています。
対面では特に効果を発揮しますが、新型コロナ対策などで参加者同士が距離をとらなければならなくなって、若干薄まってしまった感じはありますね。
※詳細は、沖本様著書『期待以上に部下が育つ 高速会議』をご参照ください。
栢野:
ある意味オンライン会議の弱点はそういったところにあるのかもしれませんね。
同じ空間にいるのと同じ画面を見ているのとでは、ロジック上問題はありませんが、感性的な部分においては、その場に一緒にいる方が「ここまで辿り着いた!」という達成感がより高まるなど差が出ると思います。
普段からオンライン会議を利用している人は、この特性をわかったうえで使えているのでしょうが、会社からの号令で一斉にやらされた人たちは、使い分けができず混乱しているように思えます。
沖本氏:
まさにその状態のようですね。
今私が懸念しているのは、コミュニケーションをオンラインに切り替えざるを得なくなった人が良くない手法をまねてしまい、悪い方向にいってしまうことですね。
オンライン会議はあまりよくない、使ってもいいことがないとは思ってほしくないですね。
栢野:
そうなってほしくはありませんが、最初の印象ですべての評価が決まってしまう方は一定数いらっしゃいますよね。
弊社では貸しテレビ会議室のサービスを提供していますが、サービス提供開始当時、テレビ会議をはじめて利用したお客様の会議の結果が良ければ「これ、いいね」と言ってお帰りになります。逆に会議の結果が良くないと「やっぱりこういうものでコミュニケーションをとるのは難しいね」と言って帰られるんです。まさしくこのパターンだと思います。
沖本氏:
オンライン会議の活用が良い形でどんどん進めばいいのに、と願います。
新型コロナウィルスの影響が落ち着いてくれば、完全にもとには戻りませんが、ほぼ近い形になるのではないかと予想しています。今回のことをきっかけに、オンライン会議ツールと無縁だった人も利用するようになったことで、良さを知ってもらう良い機会になったのではないかと思います。
オンラインとリアルを使いわけながら新しい働き方へ オンライン会議ツールがつなぐ可能性
栢野:
オンライン・リアル会議の両方に言えることですが、参加者自身が「ちゃんと会議に参加した」と会議終了後に実感できるといいですよね。
私は経営者として、会議は教育の場だと思っています。会議に参加することで、さまざまな人の考えに触れる、自分の意見をちゃんと言うなど、成長のチャンスがあります。
そういう意味では、オンライン会議がビジネスコミュニケーションの選択肢に入ってきたことで、成長の場が増えたと考えることができます。
沖本氏:
私も同感です。参加者には、会議をスキル磨きの場として活用してほしいですし、オンライン会議ツールを活用して参加者のみならず組織全体が成長してくれたらもっと良いと思います。
参加した会議を無駄だと思ったとしたら、無駄にしてしまっているのはその人自身です。司会者のせいにしたりせず、むしろ質問して司会者の成長を促すなどして、会議の時間を有意義なものにしてほしいですね。
栢野:
今後は新型コロナ騒動が落ち着いて、世のビジネスパーソンが会社と自宅(テレワーク)の両方を行き来できるようになった時に、どう使い分けていくのかが課題になってくると思っています。
仕事をするために最適化された会社の方が生産性は高いと思います。それを経営側がコストを理由に自宅からオンラインで仕事をする方向にもっていって、成果まで下がってしまっては本末転倒です。
沖本氏:
会議が参加者視点で行われるべきであるように、社員の視点で働きやすくなれば生産性もおのずと上がってくるはずです。
会社と自宅、選択肢は両方あって、どちらかに偏ることなく両方の環境で仕事をしてみたうえで、時と場合に合わせて仕事をする場所を選べる時代になっていくのではないでしょうか。そうなってほしいですね。
栢野:
そうなった時、会社と自宅どちらのコミュニケーションもスムーズにできることが大前提になると思います。そしてそれを可能にするのが、オンラインツールの力だと思います。
沖本氏:
そうですね。日本人は「今まで通り」を好む傾向が強いので、強制的に変わるしかなかった今回の状況はある意味ちょうどよかったのだと思っています。
この点で私は、新しい変化に嬉しくなりましたね。
栢野:
確かに、より質の高い働き方に変わっていけそうですね。私たちにとっても良いチャンスですし、働く人にとってもいい社会になっていくのではないかと思います。
本日はありがとうございました。
こちらは2020年10月の対談をもとに作成された記事です。記事内容はすべて取材当時のものとなります。
多くの企業が模索し続けている人材育成の方法を、「会議」という側面から提案する一冊。
著者である沖本様が、会社員時代やコンサルティングでの経験から編み出した「5分会議」® の進め方や効果などを交えながら、会議を人財育成の場として最大限に活用する方法が紹介されています。