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4.標準化について【標準化前夜】
テレビ会議教室

4.標準化について【標準化前夜】

「テレビ会議入門編2」第3回目は、「テレビ会議の草創期【デジタル編】」です。前回は、アナログ時代のテレビ会議についてご説明いただきました。今回は1980年代後半以降のデジタル時代についてお伺いします。

一般的に共通の技術仕様や規格を作成することを標準化と呼びますが、テレビ会議業界が標準化に着手した経緯を教えてください。

大久保先生
標準化とは、異なるメーカーが開発したシステム同士でも、きちんと動作することを目的としたものです。
標準化が動き出す前は、映像コーデックを作るメーカーごとに異なるテレビ会議システムが製品化され、同じ製品間でなければ通信できない状態でした。
コーデック(CODEC)

符号化/復号装置。CODECは、Coder(符号化)/Decoder(復号)の合成語です。
「符号化」とは、デジタル情報をネットワーク回線で伝送したり、DVDなどのメディアに蓄積するのに好都合な形に圧縮する処理を行うことで、「復号」は圧縮された情報をもとに戻すことです。

大久保先生

利用者からみるとメーカーを問わず互換性があるのはあたり前のように感じますが、最初にその市場に商品を打ち出したパイオ ニア・メーカーの立場からすると、膨大な時間と手間、コストをかけて開発した自社独自の技術で市場の独占を望むのは当然のことです。そして、このように考 えるメーカーが数多くある限り、世界単一の標準を実現するのは容易ではありません。

しかし、草創期にあっては市場の独占を願うパイオニア・メーカーも、次第に、市場の発展と成熟のためには標準化を行わなければならないことに気づいていきます。
特にテレビ会議システムは、相手と自分とをつないで通信するものですから標準化は欠かせません。独自路線で市場を独占し、創業者が利益を享受するということが、通信の世界では成り立ちにくいのです。
たとえば某ソフトウェア会社のように世界中の9割のOSを支配できれば、それはそれで国際標準より自社にも利用者にも役に立つでしょうが、通信の世界ではそうはいきません。
それに気づいたパイオニア・メーカーは、国際標準化に参加して貢献し、現在ではその主たる存在になっています。

実際に標準化が開始されたのはいつ頃ですか。

大久保先生

映像符号化の国際標準化がはじまったのは1980年代初頭です。
最初はヨーロッパから始まりました。有名なのは、国際間の共同開発プロジェクト「COST211」ですね。
ヨーロッパにはたくさんの国があり、中には常にお互いの動向を意識しあっている国同士もあります。しかし、自説だけを主張していても仕方がないという認識 に基づいて、「COST211」が推進されました。このプロジェクトのターゲットは、2Mbpsでの映像符号化標準とその信号の伝送技術標準です。

この成果がCCITT(Comite Consultatif International Telegraphique et Telephonique/国際電信電話諮問委員会。ITU-Tの前身)に提案され、1984年に1次群速度(1.5Mbps/2Mbps)映像符号化標 準H.120とマルチメディア多重化フレーム構成標準H.130として国際標準化されました。
このH.120とH.130を用いたテレビ会議システムは、ヨーロッパでは広く採用されました。

H.120、H.130などの認識番号とは

現在の電気通信に関する国際標準化機関は、ITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector/国際電気通信連合・電気通信標準化部門)です。そこでつくる国際標準は「勧告」と呼ばれ、「アルファベット1文字+“.”+1~4桁の数 字」形式の識別番号で表記されます。勧告によっては、数字のあとさらに「“.”+1~2桁の数字」がつく場合もあります。
最初のアルファベットはA~Zで、技術分野によって異なります。Hシリーズは、オーディオ・ビジュアル(AV)・マルチメディア・システムに関する分野です。
他に有名なものとして、モデムに関する勧告のVシリーズ、ISDNに関する勧告のIシリーズがあります。

日本における標準化は、いつ頃から取り組まれたのですか。

大久保先生

ヨーロッパと異なり、日本やアメリカは標準化においては完全に出遅れていました。標準化しようという雰囲気もなく、独自路線を貫いていました。


アメリカでは数多くのコーデックが登場していましたが、もちろん互換性はありません。相手がA社製品 を使用しているならこちらもA社製品、相手がB社製品だったらこちらもB社製品を使用するという状況です。複数のメーカー製品を用意して、利用者に相互接 続を提供する会社があったほどでした。それほど標準化には程遠い状態でした。

日本でも標準化の発想はなく、NTTを中心にNECや富士通、KDD(現KDDI)などがそれぞれ独自のコーデックを作っていました。
しかし、ヨーロッパのプロジェクトに刺激され、「彼らにできるのなら我々にもできる」ということになったのです。

その頃は、時期的に国際標準を1つに絞るというタイミングを逸していました。そこで、すでに存在しているものを認めて、それ以上の雑多な増加を防ごうという「非拡散」の方向でまとめることになりました。結果的には、ヨーロッパや日本が提案した技術など3つに絞られました。
日本が行った提案は、非常に先進的な技術でした。標準としても認められたのですが、提案するタイミングが遅かったため、実際にはほとんど使われる機会がなかったのが実状です。
またこのとき、アメリカからの技術提案はありませんでした。
もし提案があれば、前述した通りそれも標準の1つにせざるを得ない状況でしたが、アメリカはどちらかというとパイオニアとして市場を独占したい考えが強く、標準化にはあまり積極的ではなかったようです。

世界的に標準化が受け入れられたのはいつ頃ですか。

大久保先生

世界単一の標準を作成するべく、標準化がスタートしたのは1984年以降です。映像圧縮符号化標準H.261が、その中心となりました。
ビットレートは64kbpsがベースでしたので品質は十分とはいえませんでしたが、H.261は1990年に公式に標準化され、テレビ電話やテレビ会議システム標準化への大きな一歩となりました。
またH.261の成立によって、現実的なテレビ会議システムがISDNを利用して構築できるようになったのです。

テレビ会議システムの標準化を行うにあたり先行指標となった技術はありますか。

大久保先生

いろんな意味で先行指標となったのはFAXでした。
FAXは1980年に最初の標準が成立しています。 FAXは国際標準ができたがゆえに世界中からその利便性を認められ、マーケットが広がりました。いまやFAXの市場は非常に成熟して、第一線の標準化の課 題ではなくなっています。標準化が成功した非常に良い例です。


テレビ会議システムがFAXを指標とした項目の1つは、圧縮符号化です。G3 FAX(Group3規格)は、A4判原稿1枚を転送するのに約 1分かかります。それより以前の規格では3分かかりました。G3 FAXは圧縮符号化を取り入れて、送るべき情報量を1/3に圧縮しています。
もう1つが、通信の始めに端末同士が行うネゴシエーションです。FAXではそのネゴシエーションの標準T.30の一環として、独自モードにシフトしていく手順も用意されていて、テレビ会議システムでもそれを踏襲して独自モードを許容しました。
標準化は利便が公正に得られるようになるのが良い面ですが、その一方であるところで技術をFIXするため、進歩がそこで止まってしまうという要素がありま す。ある程度メーカーの独自モードを許容することでその点をカバーできるのです。メーカーの独自モードをオプションとして起動できるようにしているのは、 そのような理由もあります。


それからIPRもそうですね。FAXのIPRは、基本的な符号化についてはロイヤリティフリーです。 しかし、市場が大きくなってくるにつれて企業や弁護士が食指を動かし、関係ないのではないかと思われる特許を持ち出してライセンスフィーを要求するケース が増えました。そのような経緯から鑑みても、FAXはテレビ会議システムの先行指標といえます。


これは余談になりますが、FAXへの取組みは日本企業が一番熱心でした。漢字を用いる日本では、タイ プライターを使用する欧米と違って、伝統的に手書きに頼らざるを得ませんでした。そのツールとして、書類を読み取って画像データに変換して転送するFAX が、日本で歓迎されたという背景があります。FAXで一番利益を得たのは日本企業です。
H.261の標準化活動の途中で、標準化と距離を置いていたアメリカの某企業がありました。その企業は独自路線ポリシーにしていたのですが、そこの主張と して「標準化が我々にとっていいとは思えない。FAXを見てみろ。アメリカの会社はみんないなくなってしまったじゃないか」と言うんですね。
FAXで成功した日本企業ですが、いまテレビ会議システムではどうなっているかというと、始めの頃に数多く参入していた日本企業は一部を除いて撤退してしまい、米国企業が最大のシェアを確保しています。
このように、テレビ会議システムはいいところも悪いところも、FAXを踏襲してきましたね。

IPR(Intellectual Property Rights)とは

広義の知的財産権。一般には「知的所有権」、「無体財産権」とも呼ばれています。
特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、半導体回路配置利用権、育成者権、不正競争防止法が保護する営業秘密、周知・著名商標、商品形態などがあげられ、その動向によって今後の社会や経済に大きなインパクトを持つことが予想されます。

次回は、「標準化について【標準化の歴史】」についてお伺いします。

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